甲佐町 こうさてんプロジェクト

わたしが甲佐町に住む理由ー移住歴6年、diningspace欒時~らんどき~店長・加藤理恵子さんの場合

2019.03.13

 

 

 

 

 

 

ーわたしが甲佐町に住む理由ー移住歴6年、diningspace欒時~らんどき~店長・加藤理恵子さんの場合

 

ーー甲佐町に移住したきっかけを教えてください。

 

加藤さん:自分にとっての、理想の店づくりが出来る環境が甲佐町にあると感じたからです。元々、レストラン「diningspace欒時~らんどき~」は、熊本市内で10年間営業をしていました。そのときは2階建てのテナントで、総席40席。家賃も高く、従業員の確保も大変でした。それで、10年経った頃、これからさらに10年、今のような暮らしを続けられるか? と考えた時に、「ひとりでもう少し肩の荷を下ろしてやっていけるところはないかな」と思って、田舎に移転することを決めました。

 

田舎の中でも甲佐町に決めた理由は、まず甲佐町は、このお家の持ち主の方とご縁があったのがきっかけです。移転前に勤めてくれていたスタッフのご実家だった物件で空き家になっているので借り手を探しているという話からの始まりでした。

 

それと、それまでにも、毎年夏に開催される「あゆまつり」の時期に甲佐町に遊びに来ていて、多くの老若男女が集う姿を見ていたものですから、甲佐町でなら、田舎でお店をやる理想の絵柄がをしっかりと頭の中に描くことができたんですね。

 

もともと、「一度外の世界を見よう!」と、東京の飲食店で料理の勉強をしていた時から、出身地である熊本に戻ったら、お家みたいな場所でお店を開きたいという理想があったんです。ただその時は、どうしても、お家感のある物件が見つからず、時期のリミットもあって、交渉可能な物件の中で一番良さそうな場所に決めたんですよね。でも、今の店はリノベーションして大分雰囲気が変わりましたが、最初来たときは、もっと家財道具などが大量に残っていて、完全な「お家」だったんです。はじめて見た瞬間に、私が本当に店を開きたい田舎の家がやっと見つかったと歓喜しました。

 

 

 

 

ーー一階がお店で、二階が居住スペースなんですよね。不動産屋で運良く見つけたのですか?

 

いいえ、私は運良くこのお家の持ち主であった元スタッフからの紹介で物件に出会えることが出来ました。田舎には空き家は多いのですが窓口が解りづらいので気に入った物件を求めるならば自分の足で探すのも手だと思います。市内にいる頃、現在の物件に出会うまでは自転車で様々な場所へ出向き探索していました。

 

 

ーー実際に移転されて、時間にゆとりが生まれましたか?

 

大きく生まれましたね。前は考える時間もなく気づけば朝になっていて、朝ごはんを食べる余裕もなく、深夜の晩御飯が、その日はじめての食事みたいな日々が当たり前でした。今は、主人と朝ごはんを食べてから、お店の準備をして、晩御飯も主人と一緒に食べるなど、プライベートの時間も、ちゃんと持てるようになりました。

 

 

 

 

 

ーー甲佐町暮らしの魅力は何だと感じますか?

 

街からの程よい距離と癒しの自然、既存に無いものは自分で創り上げられる魅力も田舎にはあると思います。もともと不便さや不完全なものに惹かれる方なので。

 

何より、甲佐町には豊かな自然があります。それは例えば、おおらかな山地や、キラキラ光る緑川です。春先は緑川の傍に桜が咲き誇るので、自宅から散歩がてら向かって、そこで坐って、缶ビールを飲みながらゆるりとした時間を過ごしたり、サイクリングをしながら自然景観を楽しんだりできますからね。

 

これから移住してくる人も、都会的な何かを持ってきて発展させるとかではなく、今ある良さをアピールしてくれる人たちが増えれば嬉しいですね。

 

お店をやっていて有難いなと思う点は、そばに生産者の方がいるので、瑞々しくおいしい野菜が安く手に入ることです。収穫の時期には、そのつど旬のものが「あんたんとこなら使えるだろ?」と、届いたり(笑)。

 

うちのメニューで人気な「ニラカレー」も、甲佐町の特産品のニラを使って何ができるか? と考えたおかげで生まれたメニューなんです。毎日新しいメニューを思いついてはノートにレシピをちょこちょこと書いてるので、これからも地元の素材を生かしたメニューを提供していけたらと思いますね。

 

 

 

ーー逆に、田舎暮らしをするにあたり、気をつけるべき点や、必要な心構えがあれば教えてください。

 

「自分らしさ」を持って、まわりの環境に影響を受けすぎない方がいいと思います。田舎の良さは、その距離感の近さなんですが、受けるコミュニケーション全てが好ましいものとは限りませんから。

 

例えば、隣のお姉さんには本当によくお世話になっていて、どうしても行事に参加できないときや、何か相談がある時には、全部お姉さんに相談させていただいています。頼りきりで申し訳ないのですが(笑)。だから熊本地震があった時には、お姉さんは大丈夫か!? と家に飛んでいきました。田舎では距離感の近さから、血よりも濃い関係性が生まれることもあるんです。

 

一方で、はじめは色んな人からのコミュニケーションが、1日中、ひっきりなしに介入してきます「こんなところにお店を出してどうするの?」と、心配の声もありました。。それらすべてに対応をしていたら、疲れてしまうので、自分の中で境界線を引いて、そのつど臨機応変に対応していくのが良いと思います。スポンジのように、受ける意見すべてに素直に反応しちゃう人は、疲れちゃったり、居心地が悪くなったりしちゃうかもしれませんね。

 

 

 

 

 

ーーなるほど、なるほど。それでも移住してきて良かったと思うのは何故ですか?

 

自分に辛く当たる人がいれば、優しい人もいる。それはどこで暮らしても同じことですし、多様だからこそ、自分に合った良さにも気づけます。デメリットだけを見つめるよりは、デメリットさえも、自分でメリットに変換して楽しむくらいの心構えでいた方が、心豊かに暮らせますしね。

 

それに何より、今の暮らしが楽しいんです。前の店ではどうしても、全てを自分で作ることができないので、レシピを作って店内で共有し、提供する形をとっていました。今は、こじんまりとした店の中で、すべてをひとりで作れますから、オリジナルメニューを思いついたらすぐ、自分の思う味で提供できるので、量はたくさん作れない分、自分なりにクオリティを追求できる環境になったと思います。

 

毎日作っていても、クオリティに満足できることなんて、まずないと思うので、「今日のランチ綺麗にできたな」というキモチを忘れないようにして、これからも、一皿、一皿に向き合っていければと思います。