甲佐町 こうさてんプロジェクト

わたしが甲佐町に住む理由ー移住歴11年、財務局職員・多田路央さんの場合

2019.03.07

 

 

 

取材をさせていただいた甲佐町のよりどころENGAWA

 

 

多田さん:僕は平成18年に越してきて、移住歴は11年目になります。転勤族なのですが、子どもが小さいうちに、田舎でのびのびと育てる環境を整えたいと思い、家を建てることにしました。

 

 

ーー何故、数ある田舎の中から、甲佐町に?

僕はもともと熊本県南部の多良木町生まれなんですが、妻の出身地である甲佐町にはじめて訪れた時に「多良木町で自分が見ていた原風景に似ている」と感じたんです。多良木町も九州山地の山林に恵まれ、町の中央部には球磨川が流れているのですが、都心に出るのが大変で。そのため、同じような環境だけど、都心へのアクセスがいい甲佐町の「ちょうど良さ」加減に惹かれました。

 

 

ーー実際に、甲佐町で子育てをしてみていかがですか?

大きく2点、良かったと感じていることがあります。1つは、田舎だからこそ、家のまわりがそのまま子どもたちの遊び場になることです。特別どこかへ連れて行かなくても、家の前の道路や川沿い、自宅の庭で、友だち同士で遊べるので、お金を使わなくても、自分たちで遊びを生み出せる力が身に付いて良かったなと。おかげさまで、2人の子どもは伸び伸び育ってくれました。

もうひとつは、妻の実家の近くに越してきたので、おじいちゃんおばあちゃんと交流できる機会が多く、おかげで、夫婦の子育てだけでは身に付かないような思いやりややさしさを持つ子たちに育ったように思います。年長者の話に敬意を持ちながら、耳を傾けたり、ゆっくりと優しい口調で話しかけたり……都心だと、なかなか家族以外の人と話すことが難しいですが、田舎では、近隣に住む年配の方とコミュニケーションを取ることも多いため、様々な価値観に触れながら、地域に育ててもらえるという良さがあると思います。

 

 

 

 

ーー田舎で子育てをする魅力を感じました。その他に、甲佐町ならではの魅力があれば教えてください。

1つにはやはり、都心へのアクセスがいいところです。空港へも40分で行けますので、田舎暮らしを楽しみつつ、週末には田舎と都会を行き来できるので、生活の幅が結構広がると思います。

もうひとつは、なんと言っても、近場に、山、川、さらに大きなキャンプ場が揃っている(熊本地震の影響で休止中)点ですね。都心に住んでいると、山や川へ行くための移動時間を要しますが、甲佐町はコンパクトな町なので、全て近くにあるのです。ですから、子育てに良いのはもちろん、アウトドア好きのファミリーにとっては、堪らない環境だと思いますよ。

 

特に甲佐町=緑川というくらい、「緑川」や町中を流れる「大井手川」の存在は大きいですね。町中にこれほど風情のある川が流れているのは、珍しいんじゃないですか。生まれた頃から甲佐町に住んでいる人も、移住してきた人も、「緑川」や「大出手川」という共通言語を話題にするだけで、話が弾みますし、甲佐町で育った人はみんな何かしら、緑川に思い出があるので、エピソードがたくさん出てくるんですよ(笑)。この緑川も、町の大きな魅力だと思います。甲佐町には有名な「やな場」もあり、住民交流を担うシンボルですね。

 

 

 

 

 

ーー移住してきて困ったことや、課題に感じたことはないですか?

甲佐町には、大きな遊び場や公園がありません。町のどこでも遊び場になるという良さはあるんですが、もっと子供たちが思いっきり体を動かせたり、親も含めて地域交流できるような公園ができれば嬉しいですね。また、町内には、「やな場」や「大井手川の風景」、「甲佐神社」など素晴らしい地域の資源があるのに十分に生かしきれていないなあという思いがありました。

 

 

ーーなるほど。やはり地域交流が課題なんですね。

もちろんそうです。地域交流については、妻は生まれ育った地なので、知り合いが多くいますが、僕にとっては、家族以外に知り合いがひとりもいない町に移住することになったので、甲佐に来てすぐの頃は、ちゃんと溶け込んでいけるか、とても不安でした。

ですからはじめは、田舎ならではのコミュニティに馴染むために、地域の小さな行事に積極的に参加したり、子どもの通う学校でPTAの役員をしたり、積極的に動くように心掛けました。地域の方もそんなところを見ていてくれていたような気がします。

ただ、これから移住してくる人は、11年前と違って、比較的スムーズに地域に馴染めると思いますよ。

 

 

 

ーーそれは何故でしょう?

「こうさてんプロジェクト」がスタートしたり、まちづくりひとづくりのための一般社団法人パレットが設立されるなどまちづくりへの気運が高まってきたからです。僕は、甲佐町をちょうどいい田舎として魅力的に感じながらも、なんにもない所だなと思ったこともありました。だからといって、何か行動を起こそうともしなかったんですが。

それが「こうさてんプロジェクト」に参加したことで、まちづくりに興味を持つようになって、町を良くしていくためには何をすればいいんだろう? と考えて、自ら行動するようになったんですね。

 

 

 

 

ーー環境は変わっていないのに、姿勢が変わったんですね。

はい、でもそんな想いの連鎖で、実際に町が変わろうとしています。僕も、「こうさてんプロジェクト」に参加して、まちづくりに関わる面白い人たちにたくさん出会えました。

今は、「こうさてんプロジェクト」をきっかけに出会った4名と一緒に、まちづくりをおこなう「一般社団法人パレット」という法人を作り、まちづくりに関する活動をしています。ワーク・ライフ・バランスというか、地域の課題に直に関わることで、国家公務員としての仕事の幅が広がったようにも感じます。

メンバーは、地元病院の事務長、地元ガス会社や商工会の青年部長経験者で地元企業の後継者に、財務局職員の僕と、全員働く分野は異なりますが、それぞれのスキルを活かし協力して動けば地域をより良く変えていけるメンバーが揃っているんです。さらに、「パレット」は、行政や地域の銀行、病院、商工会を巻き込んで「まちづくり協議会」を発足させるなど、地域での人脈を広げながら、活動を拡大しています。

今移住してきた人は、「こうさてんプロジェクト」や、「一般社団法人パレット」が活発に動いているため、すぐに町の面白い人たちに出会えるなどして、地元に馴染んでいきやすいと思います。

ぜひ、新しく移住してきた人たちの客観的な意見もいただきながら、一緒にまちづくりに取り組んでいきたいですね(笑)。

 

 

 

 

 

 

ーーまちづくりに興味がある人にとっては、まさにまちづくりの初期段階から関われる、またとない機会だと思います。

実際、ここ最近で、オシャレな店も増えてきたんです。今まさに取材を受けている「ENGAWA」さん、同じ通りにあるセレクトショップ「NEWOLD」、こだわりランチがいただけるリノベーションカフェ「ダイニングスペース欒時-らんどき」さん、週末等いろんなイベントもやっている古民家再生で生まれ変わった「やまぼうしの樹」など……、オープン当初は、「甲佐町にこんなオシャレな店が!?」と近隣がざわめいたものです(笑)。ほかにも魅力的な飲食店が多く、パレットが生まれるきっかけとなった「クロスカフェ」のマスターと奥さんにはいつもお世話になってます。

 

 

 

 

甲佐町にあるセレクトショップ NEWOLD

 

 

 

ただ個人的にはもっともっと、甲佐町ならではの肥沃な土地や、そこで採れた食材を生かした素敵な飲食店や企業を増やしたいと考えています。そうでないと、せっかく稼いだお金を全国チェーン店での買い物に落としていたら、そのお金は、東京などの都市部の本社に全て吸収されてしまって、結局甲佐町自体が元気にはなっていけませんから。

僕はまちづくりとは、地域に人を増やすためではなく、地域に住む人が幸せになるために行われるべきものだと考えています。ですから、まちづくりへの情熱は燃やしながらも、人口減少などに起因するさまざまな問題はありますが、それに対応する冷静かつ具体的計画的に、地域内の経済循環を高めることで町が元気になる仕組みを作りたいです。

 

 

 

 

 

ーー今移住を検討されている方たち、中でも今回の記事を通して甲佐町に興味を持たれた方たちに、最後に一言、お願いします。

もし今、移住をしようかどうかと悩んでる方がいるなら、思い切って一歩踏み出してください。元々僕が「こうさてんプロジェクト」をチラシで見て知ったときは、実は、申し込み期限は切れていたんです(笑)。でもそこで「ダメ元で連絡してみよう」と一歩踏み出したから今があるので。

まずはぜひ甲佐町に遊びに来てください。そして「こうさてんプロジェクト」の旧西村邸古民家改修ワークショップに参加したり、僕らと話をしたり、緑川の景観にも触れるなどして、さらに次の一歩を踏み出したいと思えるかどうか、実地に確かめに来てください。

すべてがスタート地点にある甲佐町の今が、僕はとても楽しいんです。ひとりでも多く遊びに来て、仲間になってくれる人が増えるのを心待ちにしています。